
2026年07月07日
会社を経営していると、毎月の売上や利益には意識が向きやすい一方で、意外と見落とされがちなのが「社長自身の役員報酬」です。
この記事の結論
社長の役員報酬は、単なる給料ではありません。会社に残るお金、社長個人の手取り、法人税、所得税、住民税、社会保険料、資金繰りにまで影響する重要な経営判断です。高すぎても低すぎても損をする可能性があるため、会社と個人を合算して「最終的にいくらお金が残るか」で考えることが大切です。
「利益が出ているから、役員報酬を高くした方がいい」
「税金を抑えたいから、役員報酬は低めでいい」
「会社のお金だから、必要なときに自由に使えばいい」
このように考えている経営者の方も少なくありません。
しかし、役員報酬の設定を間違えると、会社では利益が出ているはずなのに、なぜか手元資金が残らない、社長個人も思ったほど手取りが増えない、税金や社会保険料の支払いで資金繰りが苦しくなる、といった状況に陥る可能性があります。
目次
1. 役員報酬は「高ければ得」でも「低ければ得」でもない
まず大前提として、役員報酬は高ければ高いほど得というわけではありません。反対に、低く抑えれば必ず得というわけでもありません。
なぜなら、役員報酬を上げると、会社側と個人側でそれぞれ違う影響が出るからです。
役員報酬を上げると、会社から見れば人件費として経費になります。その分、会社の利益が減るため、法人税の負担を抑えやすくなります。
一方で、社長個人から見ると、役員報酬は給与所得になります。そのため、所得税、住民税、社会保険料の負担が増えます。
ポイント
役員報酬を高くすると、会社側では法人税が下がりやすい一方で、個人側では税金や社会保険料が増えやすくなります。つまり、役員報酬は「高い・低い」だけで判断できません。
逆に役員報酬を低くすると、社長個人の税金や社会保険料は抑えやすくなります。しかし、その分会社に利益が残り、法人税の負担が増える可能性があります。
つまり、役員報酬の正解は「高い・低い」ではなく、会社と個人を合わせて、最終的にどれだけお金が残るかで考える必要があります。
2. 社長の手取りを考えるなら「会社+個人」で見る
役員報酬を考えるとき、多くの方が社長個人の手取りだけを見てしまいます。
しかし、社長の場合は、会社に残るお金と個人に残るお金を分けて考えすぎると判断を誤りやすくなります。
たとえば、役員報酬を多く取れば、社長個人の口座にはお金が入ります。しかし、その分、個人の所得税、住民税、社会保険料が増えます。
一方で、役員報酬を少なくすれば、社長個人の負担は軽くなります。しかし、会社に利益が残るため、会社側で法人税が発生します。
社長が見るべき視点
「社長個人にいくら残るか」だけではなく、「会社と社長個人を合わせて、いくらお金が残るか」を見ることが重要です。
会社のお金と社長個人のお金は、会計上は別物です。しかし、一人法人や中小企業の場合、実質的には社長の生活、会社の運転資金、税金、社会保険料、借入返済、今後の投資がすべてつながっています。
そのため、役員報酬は単なる給料ではなく、会社全体の資金設計として考える必要があります。
3. 役員報酬を上げすぎると、社会保険料が重くなる
役員報酬を決めるときに見落とされやすいのが、社会保険料です。
所得税や法人税は意識していても、社会保険料まで含めて計算していないケースは少なくありません。
しかし、社長の手取りを考えるうえで、社会保険料は非常に大きな負担になります。
役員報酬が上がると、健康保険料や厚生年金保険料の計算基礎となる標準報酬月額も上がります。その結果、毎月の社会保険料負担が増えます。
しかも社会保険料は、社長個人だけでなく会社側も負担します。つまり、役員報酬を上げると、個人の手取りが思ったほど増えないだけでなく、会社側の負担も重くなります。
| 役員報酬を上げた場合 | 影響 |
|---|---|
| 会社側 | 利益が減り、法人税を抑えやすくなる |
| 社長個人側 | 所得税・住民税・社会保険料が増えやすい |
| 資金繰り | 会社から毎月出ていく固定費が増える |
たとえば、役員報酬を上げたことで法人税は下がったとしても、所得税、住民税、社会保険料を合わせると、トータルではあまり得になっていないというケースがあります。
そのため、役員報酬を決める際は、税金だけでなく社会保険料まで含めて考えることが重要です。
4. 役員報酬を低くしすぎても問題がある
一方で、役員報酬を低くしすぎるのも注意が必要です。
確かに、役員報酬を低くすれば、社長個人の所得税や住民税、社会保険料は抑えやすくなります。
しかし、会社に利益が残れば、法人税の対象になります。会社にお金が残っているように見えても、決算後に税金の支払いが発生し、思った以上に資金が減ることがあります。
また、社長個人の生活費が足りなくなるほど役員報酬を低く設定してしまうと、結局、会社からお金を借りるような形になったり、経費と生活費の区別があいまいになったりする可能性があります。
注意点
役員報酬は節税だけで決めるものではありません。社長自身の生活費をきちんと確保しながら、会社にも必要な資金を残すことが大切です。
5. 役員報酬は途中で自由に変えにくい
役員報酬で特に注意したいのが、事業年度の途中で自由に増減させにくいという点です。
一般的な給与であれば、状況に応じて昇給や減給を行うことがあります。しかし、役員報酬については、法人税上、一定のルールに沿って支給しなければ、会社の経費として認められない可能性があります。
代表的なのが「定期同額給与」です。
定期同額給与とは、簡単に言えば、毎月同じ金額で支給される役員報酬のことです。このルールを守ることで、役員報酬を会社の経費として扱いやすくなります。
逆に、利益が出たから急に役員報酬を増やす、資金繰りが厳しいから急に下げる、といった変更を安易に行うと、税務上問題になる可能性があります。
重要
役員報酬は「今月儲かったから増やそう」という感覚で決めるものではありません。期首の段階で、年間の売上予測、利益予測、税金、社会保険料、資金繰りを見ながら慎重に設定する必要があります。
6. 最適な役員報酬は会社ごとに違う
では、社長の役員報酬はいくらが正解なのでしょうか。
結論から言えば、すべての会社に共通する正解はありません。
なぜなら、会社ごとに状況が違うからです。
同じ年商でも、利益率が高い会社と低い会社では、適正な役員報酬は変わります。借入返済が多い会社と、ほとんど借入がない会社でも違います。
今後、人を雇う予定がある会社、広告費を増やしたい会社、設備投資を考えている会社でも、会社に残すべきお金は変わります。
また、社長個人の生活費や家族構成によっても必要な役員報酬は異なります。
| 確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
| 年間の売上見込み | 今期どれくらい売上が見込めるか |
| 年間の利益見込み | 役員報酬を差し引く前後で利益がどう変わるか |
| 社長個人の生活費 | 毎月いくらの手取りが必要か |
| 会社の運転資金 | 仕入れ、外注費、人件費、税金などを支払えるか |
| 税金・社会保険料 | 法人税、所得税、住民税、社会保険料のバランス |
| 将来の投資計画 | 広告費、採用費、設備投資などに資金を残せるか |
つまり、役員報酬は「月いくらが一番得」と単純に決められるものではありません。会社と社長個人にとって無理のない金額を設定する必要があります。
7. 社長がやりがちな失敗例
役員報酬でよくある失敗の一つが、利益が出そうだからといって高めに設定しすぎることです。
たとえば、前期の業績が良かったから、今期も同じくらい利益が出るだろうと考えて、役員報酬を高く設定するケースです。
しかし、実際には売上が落ちたり、外注費や広告費が増えたり、税金や社会保険料の支払いが重なったりして、資金繰りが苦しくなることがあります。
役員報酬は毎月発生する固定費です。一度高く設定すると、会社の資金繰りに大きく影響します。
反対に、税金を抑えたいからといって役員報酬を極端に低くするのも危険です。
社長個人の生活費が不足すれば、結局どこかで会社のお金に頼ることになります。また、会社に利益が残りすぎれば、法人税の負担が重くなることもあります。
8. 役員報酬を決めるときの基本的な考え方
役員報酬を決めるときは、まず社長個人に最低限必要な生活費を把握することが大切です。
生活費、住宅費、教育費、保険料、個人の税金、ローン返済などを整理し、毎月どれくらいの手取りが必要なのかを確認します。
次に、会社の年間利益を予測します。
売上から仕入れ、外注費、人件費、広告費、家賃、通信費、借入返済、税金などを差し引き、会社にどれくらい資金を残すべきかを考えます。
そのうえで、役員報酬をいくらにすると、会社と個人の合計で最もバランスが良いかを検討します。
判断基準
税金が少なくなっても、会社の資金が足りなくなれば意味がありません。個人の手取りが増えても、社会保険料や税金の負担が重くなりすぎれば、思ったほどお金は残りません。
9. 役員報酬は「手取り最大化」と「資金繰り安定」の両方で考える
社長の役員報酬を考えるとき、多くの方が「いかに税金を減らすか」に意識を向けます。
もちろん、税負担を抑えることは重要です。
しかし、税金だけを見てしまうと、資金繰りを見落とす可能性があります。
会社経営において本当に大切なのは、税金を減らすことだけではなく、手元資金を安定させることです。
たとえば、法人税を抑えるために役員報酬を高く設定したとしても、その結果、会社に運転資金が残らなくなれば、支払いに困る可能性があります。
仕入れ代金、外注費、人件費、税金、社会保険料、家賃、広告費など、会社には毎月さまざまな支払いがあります。
役員報酬を決める際は、社長個人の手取りだけでなく、会社が安定して支払いを続けられるかどうかも必ず確認する必要があります。
10. 一人法人・中小企業ほど役員報酬の設計が重要
特に一人法人や中小企業では、役員報酬の設定が経営に与える影響が大きくなります。
大企業であれば、社長の報酬と会社の資金繰りはある程度分離されています。しかし、一人法人や小規模法人では、社長の生活費と会社の資金繰りが密接に関係しています。
役員報酬を高くしすぎると、会社に資金が残りません。役員報酬を低くしすぎると、社長個人の生活が苦しくなります。
さらに、税金や社会保険料の支払い時期が重なると、黒字なのに資金繰りが苦しいという状態になることもあります。
そのため、一人法人や中小企業ほど、役員報酬は慎重に設計する必要があります。
まとめ:役員報酬は社長の手取りを左右する経営戦略
社長の役員報酬は、単なる給料ではありません。
会社の法人税、社長個人の所得税・住民税、社会保険料、会社に残る資金、社長個人の生活費、将来の投資資金にまで影響する重要な経営判断です。
この記事の要点
- 役員報酬を高くすると、法人税は抑えやすいが、個人の税金や社会保険料が増えやすい
- 役員報酬を低くすると、個人負担は抑えやすいが、会社に利益が残り法人税が増える可能性がある
- 社長の手取りは、会社と個人を合算して考えることが重要
- 役員報酬は期中に自由に変えにくいため、期首の設計が重要
- 節税だけでなく、会社の資金繰り安定まで考える必要がある
役員報酬を高くすれば、会社の利益は減り、法人税を抑えやすくなります。しかし、社長個人の税金や社会保険料は増えます。
役員報酬を低くすれば、社長個人の負担は抑えやすくなります。しかし、会社に利益が残り、法人税の負担が増える可能性があります。
つまり、役員報酬の最適額は、高いか低いかではなく、会社と個人を合わせてどれだけお金が残るかで考える必要があります。
社長の手取りを最大化したいなら、役員報酬はなんとなく決めてはいけません。
売上、利益、生活費、税金、社会保険料、資金繰り、将来の投資計画まで含めて、総合的に判断することが大切です。
資金繰りに不安がある方へ
役員報酬や税金、社会保険料の支払い時期が重なると、黒字でも一時的に資金繰りが苦しくなることがあります。
売掛金の入金前に支払いが先に来てしまう場合や、急な納税・外注費・人件費の支払いで資金が必要になった場合は、早めに資金調達の選択肢を確認しておくことが大切です。
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出典・参考情報
-
国税庁「No.5211 役員に対する給与」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm -
国税庁「No.5759 法人税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm -
日本年金機構「標準報酬月額、賞与等」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/index.html
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・社会保険・法務上の判断を保証するものではありません。具体的な役員報酬の設定や税務処理については、税理士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。
カテゴリ:ソクデル情報館




