
2026年07月29日
令和8年度税制改正により、中小企業者等が利用できる
「少額減価償却資産の特例」
が拡充されました。
これまで、取得価額30万円未満の減価償却資産が特例の対象でしたが、
2026年4月1日以後に取得等をする資産については、取得価額40万円未満まで
対象が広がっています。
30万円台のパソコン、業務用機器、工具、ソフトウェアなども、一定の要件を満たせば、購入した年度に取得価額の全額を経費として処理できる可能性があります。
注意点
1資産当たりの基準は40万円未満に拡大されましたが、年間300万円の上限は変更されていません。また、対象となる法人の従業員数要件も変更されています。
本記事では、令和8年度税制改正による変更点、対象者、適用時期、手続き、実務上の注意点に加え、設備投資が資金繰りに与える影響について分かりやすく解説します。
この記事の目次
少額減価償却資産の特例とは
少額減価償却資産の特例とは、青色申告を行っている一定の中小企業者等が、対象となる減価償却資産を取得した場合に、その取得価額の全額を取得年度の損金または必要経費に算入できる制度です。
通常、パソコン、機械、工具、設備などの減価償却資産は、法律で定められた耐用年数に応じて、数年間に分けて経費計上します。
しかし、この特例を利用できれば、対象資産の取得価額を購入年度にまとめて経費として処理できます。
具体例
取得価額35万円の業務用パソコンを購入した場合、通常は数年に分けて減価償却しますが、特例の要件を満たしていれば、35万円全額を購入年度の経費にできる可能性があります。
ただし、これは税金そのものが35万円減る制度ではありません。
経費が35万円増えることで課税所得が減り、その結果として法人税や所得税の負担が軽減される仕組みです。
令和8年度税制改正で変わったポイント
令和8年度税制改正では、少額減価償却資産の特例について、主に次の内容が変更されました。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 1資産当たりの取得価額 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| 法人の従業員数要件 | 500人以下 | 400人以下 |
| 適用期限 | 2026年3月31日 | 2029年3月31日 |
| 年間の合計上限 | 300万円 | 300万円で変更なし |
取得価額の基準が40万円未満に拡大
最も大きな変更は、対象となる資産の取得価額が「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられたことです。
これにより、これまで通常の減価償却が必要だった30万円以上40万円未満の資産も、一定の要件を満たせば即時償却できるようになりました。
対象になり得る設備の例
- 高性能パソコン
- 業務用プリンターや複合機
- 建設現場で使用する工具や測定機器
- 配送・倉庫業務で使用する機器
- 業務用ソフトウェア
- 防犯カメラや通信機器
従業員数要件は400人以下に変更
対象となる法人については、常時使用する従業員数の要件が変更されました。
改正前は、常時使用する従業員数が500人を超える法人が対象外でしたが、改正後は400人を超える法人が対象外となります。
従業員数が401人から500人の法人は、取得価額の上限が広がった一方で、特例を利用できなくなる可能性があります。
なお、資本金、出資関係、株主構成などによっても対象外になる場合があります。最終的な適用可否は、税理士などの専門家へ確認することが大切です。
適用期限が2029年3月31日まで延長
今回の改正により、特例の適用期限は2029年3月31日まで延長されました。
ただし、恒久的な制度ではなく、期限のある特例措置です。設備投資を予定している場合は、適用期限を確認しながら計画を立てましょう。
いつ購入した資産から40万円未満になる?
新しい40万円未満の基準は、原則として、
2026年4月1日以後に取得等をする減価償却資産
に適用されます。
| 取得等をした日 | 取得価額の基準 |
|---|---|
| 2026年3月31日以前 | 30万円未満 |
| 2026年4月1日以後 | 40万円未満 |
例えば、2026年3月25日に35万円のパソコンを取得した場合は、旧基準となるため、この特例の対象にはなりません。
一方、2026年4月10日に同じ35万円のパソコンを取得した場合は、その他の要件を満たせば、特例の対象になる可能性があります。
事業年度の途中に2026年4月1日を含む法人では、同じ事業年度内でも、資産の取得日によって30万円基準と40万円基準が混在する可能性があります。
特例を利用できる主な対象者と条件
少額減価償却資産の特例を利用するには、主に次の条件を満たす必要があります。
| 確認項目 | 主な内容 |
|---|---|
| 申告方法 | 青色申告を行っていること |
| 対象者 | 一定の中小企業者、個人事業主等 |
| 取得価額 | 1資産当たり40万円未満 |
| 年間上限 | 1事業年度当たり合計300万円まで |
| 使用状況 | 事業に使用していること |
| 会計処理 | 取得価額を損金または必要経費として処理すること |
| 申告手続き | 明細書などの必要書類を添付すること |
法人の場合、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書などを添付する必要があります。
個人事業主についても、青色申告決算書への記載など、所定の手続きが必要です。
また、大企業の子会社に該当する場合など、資本金が1億円以下であっても対象外になるケースがあります。
年間300万円の上限は変更なし
1資産当たりの基準は40万円未満に拡大されましたが、1年間に特例を利用できる取得価額の合計は300万円までです。
具体例
38万円の設備を8台購入した場合、取得価額の合計は304万円になります。この場合、304万円すべてに特例を適用できるわけではありません。
どの資産に特例を適用するかを検討し、年間300万円の範囲内で処理する必要があります。
また、事業年度が12か月未満の場合は、原則として年間300万円の上限を月数に応じて按分します。設立初年度や決算期を変更した年度は特に注意しましょう。
取得価額別の会計処理
少額の資産には、取得価額によって複数の処理方法があります。
| 取得価額 | 主な処理方法 | 経費計上 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 少額資産として処理 | 原則として全額経費 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産 | 3年間で均等償却 |
| 40万円未満 | 少額減価償却資産の特例 | 要件を満たせば全額経費 |
| 40万円以上 | 通常の減価償却 | 耐用年数に応じて経費計上 |
10万円以上20万円未満の資産については、少額減価償却資産の特例を利用せず、「一括償却資産」として3年間で均等償却する方法もあります。
どの方法が有利かは、利益の状況、年間300万円の利用枠、償却資産税、今後の融資予定などによって変わります。
単純に「一度に経費にできるから有利」とは限りません。会社の利益や今後の事業計画に合わせて判断することが重要です。
特例の対象になり得る資産
少額減価償却資産の特例は、事業で使用する幅広い減価償却資産が対象になり得ます。
パソコン・タブレット
事務作業、設計、動画編集、システム開発などに使用するパソコンやタブレットが該当する可能性があります。
1台ごとに独立して使用できる場合は、原則として1台ごとの取得価額で判定します。
工具・測定機器
建設業や製造業で使用する電動工具、測定機器、検査装置なども対象になり得ます。
ただし、複数の機器が一体となって初めて機能する場合は、セット全体の金額で判断される可能性があります。
業務用ソフトウェア
会計ソフト、設計ソフト、顧客管理システムなどのソフトウェアも、減価償却資産に該当すれば対象となる可能性があります。
月額制のクラウドサービス利用料は、一般的に資産購入ではなく利用料として処理されるため、買い切り型のソフトウェアとは取扱いが異なります。
複合機・業務用機器
プリンター、複合機、厨房機器、倉庫設備なども対象になり得ます。
ただし、本体価格だけでなく、設置費用や運送費などを含めた取得価額で判定する場合があります。
取得価額を判定するときの注意点
設置費用や運送費も含まれる場合がある
特例の40万円未満という基準は、商品の本体価格だけで判断するとは限りません。
資産を購入し、事業で使用できる状態にするまでに直接かかった次の費用は、取得価額に含まれる可能性があります。
- 運送費
- 搬入費
- 設置費
- 設定費
- 試運転費
- 購入手数料
本体価格が38万円でも、設置費用が3万円かかった場合、取得価額が合計41万円と判断され、特例を利用できない可能性があります。
税込経理か税抜経理かで判定額が変わる
取得価額を税込金額で判定するか、税抜金額で判定するかは、会社が採用している消費税の経理方式によって異なります。
| 経理方式 | 判定する取得価額 | 40万円未満か |
|---|---|---|
| 税抜経理 | 370,000円 | 対象になり得る |
| 税込経理 | 407,000円 | 対象外となる可能性 |
40万円前後の資産を購入する場合は、自社が税込経理と税抜経理のどちらを採用しているか確認しておきましょう。
セット商品は合計金額で判断される場合がある
複数の商品を同時に購入しても、それぞれが独立して使用できる場合は、個別の取得価額で判定できることがあります。
一方、複数の機器が組み合わさって初めて機能する場合は、セット全体を1つの資産として判定される可能性があります。
例えば、防犯カメラ、録画装置、モニターなどを一式で導入した場合、システム全体の取得価額で判断されるケースがあります。
請求書を形式的に分けただけで、必ず別々の資産として認められるわけではありません。実際の機能や取引単位に基づいて判断されます。
購入しただけでは適用できない
特例を利用するためには、原則として対象資産を事業の用に供している必要があります。
決算直前に購入しても、未開封のまま保管しているだけでは、購入年度の経費として認められない可能性があります。
保管しておきたい資料
- 納品書
- 設置完了報告書
- 使用開始日が分かる記録
- 業務で使用していることが分かる写真
- 初期設定の完了記録
即時償却しても償却資産税の申告が必要な場合がある
少額減価償却資産の特例によって、法人税や所得税の計算上、取得価額の全額を経費にしたとしても、償却資産税の取扱いは別です。
原則として、少額減価償却資産の特例を適用した資産は、償却資産税の申告対象になる可能性があります。
一方、10万円以上20万円未満の資産を一括償却資産として3年間で処理した場合は、一般的に償却資産税の対象外となります。
| 処理方法 | 法人税・所得税 | 償却資産税 |
|---|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 取得年度に全額経費 | 申告対象になる可能性 |
| 一括償却資産 | 3年間で均等償却 | 原則として対象外 |
| 通常の減価償却 | 耐用年数で償却 | 原則として対象 |
償却資産税は市区町村へ申告する地方税です。具体的な申告方法については、所在地を管轄する自治体や税理士へ確認してください。
即時償却は必ずしも節税額が増える制度ではない
少額減価償却資産の特例は、将来計上する予定だった減価償却費を、購入年度に前倒しで経費計上する制度です。
そのため、長期的に見れば、経費にできる総額そのものが大幅に増えるわけではありません。
購入年度の利益と税負担を抑えられる一方で、翌年度以降はその資産に関する減価償却費を計上できなくなるため、翌年度以降の利益が増える可能性があります。
設備投資と資金繰りを一緒に考えることが重要
少額減価償却資産の特例を利用すると、購入年度の税負担を軽減できる可能性があります。
しかし、設備を購入した時点では、会社から実際に現金が支出されます。
38万円のパソコンを購入して38万円全額を経費にできたとしても、38万円がそのまま手元に戻ってくるわけではありません。
税負担の軽減効果が表れるのは、決算や確定申告を行った後です。そのため、設備投資を行う際は、次の支払いまで含めた資金繰りを確認する必要があります。
- 給与や外注費
- 材料費や仕入代金
- 税金や社会保険料
- 家賃やリース料
- 借入金の返済
- 翌月以降の設備投資
「経費にできるから」という理由だけで設備を購入すると、税金は減っても手元資金が不足する可能性があります。
設備投資の判断では、節税効果だけでなく、投資後の預金残高や売掛金の入金予定も確認しましょう。
売掛金の入金前に資金が必要な場合はファクタリングも選択肢
設備の購入代金、外注費、材料費などの支払いが先に発生し、取引先からの売掛金が入金されるまで時間がある場合は、資金繰りが一時的に厳しくなることがあります。
そのような場合には、保有している売掛債権を売却して資金化する「ファクタリング」も資金調達方法の一つです。
ファクタリングは融資とは異なり、将来入金される売掛金を早期に資金化する仕組みです。
ただし、利用時には手数料が発生します。設備投資による効果、売掛金の入金日、必要金額、ファクタリング手数料などを比較したうえで利用を判断しましょう。
少額減価償却資産の特例に関するよくある質問
まとめ
令和8年度税制改正により、少額減価償却資産の特例は次のように変更されました。
- 取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に拡大
- 2026年4月1日以後に取得等をする資産から新基準を適用
- 法人の従業員数要件は400人以下に変更
- 適用期限は2029年3月31日まで延長
- 年間300万円の上限は変更なし
- 設置費や運送費を含めて40万円以上になる場合がある
- 購入だけでなく、事業で使用を開始していることも重要
- 即時償却しても償却資産税の申告対象になる場合がある
今回の改正により、30万円台のパソコンや業務用機器なども即時償却の対象になりやすくなりました。
ただし、設備投資では購入時に現金が減少します。税負担の軽減だけでなく、購入後の支払予定や売掛金の入金日も確認し、無理のない資金計画を立てることが重要です。
※本記事は一般的な制度の解説を目的としたものであり、個別の税務判断を行うものではありません。実際の適用可否や会計処理については、税理士、税務署または自治体へご確認ください。
カテゴリ:ソクデル情報館




